透明な海



リビングには、甘く香ばしい匂いが漂っていた。

匂いの正体を焼く音が少し変わった直後、「やった」と嬉しそうな母親の声が聞こえた。

「それはもしや」

十織が言うと、おはように「フレンチトーストだよ」と続けられた。

「トッピングはなににする?」

「そうだなあ。バナナ」

「いいねえ」

わたしもそうしよう、と母親の声は言う。


十織はフレンチトーストの完成を待つ間、リビングの扉の向かい側にある鳥籠を覗いた。鮮やかな水色のインコが止まり木にいる。

十織が「おはよう、アムール」と声を掛けると、そのインコも「オハヨウ」と言葉を発す。

「アムール、今日も元気そうだね。なによりだよ」

「アムール、ゲンキヨ。ヨカッタネエ、ネッ」

「うん、よかったよかった」

「ヨカッタ。ヨカッタネエ」

「うん。アムールが元気でよかったよ。あとで散歩しようね」

「アムール、アム……サンポ、サンポ。アムールカシコイ」

「うん、アムール賢いよ。もう少し待ってね」

「トオリ」

「十織だよ?」

「サンポイコッカ。アム……ゲンキ。ネー」

「元気だね」


できたよと母親が皿を運んできて、十織は「ちょっと待っててね」とアムールへ声を掛ける。

彼からは「ショウガナイ」といつものように返ってきて、「ごめんね」と十織は返す。