携帯電話は十二時二十五分を表した。
寝すぎたなと思いながら、潤はミントグリーンのタオルケットを剥ぐ。
ベッドを出て、目についた服に着替える。左胸に小さなポケットのついた淡い黄色のティーシャツにジーンズだ。特別におかしいことはないだろうと全体を確認し、私室を出る。
昨日の別れ際、十織には七瀬と過ごすように言った。
「本当に?」と不安げな表情を見せた十織だったが、「七瀬を楽しませてやれ」と言えば頷いた。もっとも、今日の七瀬の予定など知らなかったが。
静香も今日はどこかに出掛けているようで、一階は空っぽで、玄関には彼女の靴もなかった。
潤は玄関を出て、鍵を閉めた。
合鍵をポケットに収めながら、自分はこれほど他人の影響を受けやすかっただろうかと腹の中で苦笑する。
今年の夏休みは毎日出掛けている。それが当然になりつつあり、今日もこうして玄関に鍵をかけた。
別に目的があるわけではない。行きたい場所があるわけでもない。
外は暑く、いて快適な場所でもない。この頃の図書館は節約だか節電だかとして冷房もそれほど利いていない。
こんな日に出掛ける必要などないのだ。それでも、当然になりつつある日常を変えたくなかった。
見慣れた名前を刻む門を通る。
敷地内ではちらちらと子供が遊んでいた。
館内では、あちこちに勉強に励む人の姿が認められた。
厚い書籍に目を通し、手元のノートに筆記用具を走らせる。慣れた手つきでパソコンを操作する者もいる。
潤は知らない題名の本を手に取り、適当な席に着いて表紙を開いた。