「あの」と彼は声を発した。
「ん?」と十織はこちらを見る。
「ちょっと違うんだわ。今、この時代に人間は必要なのかっつうか、この世に人間が存在する意味ってなんだっていうか……」
「今この時代に人間が必要かとなるとまたいろいろ思考が広がるけど、この世に人間が存在する理由は、『生まれちゃったから』――じゃないかな」
「生まれたから?」
「これはあくまでおれの想像だよ? 遠い昔、生まれてしまった人間は、仲間が欲しかったんだよ。周りには自分とは違う姿かたちの生き物ばかりで、同じ種類の仲間が欲しかった。別の場所には同じように考えた人間もいて、やがて二人は出会った――」
素敵だねと言ってとろんと微笑む十織へ、ちょっと待てと返す。
「心酔すんな。酔いの水に浸るな」
「そういう物語が、いくつもあったんじゃないの? 遠い昔、同じようで違うこの世界で」
「待て、おれを置いてくな」
「今の世界に人間が存在するのは、これほど周りにたくさんいるのが当然な世界で、滅亡の瞬間を自分一人で迎えるのが怖いんだよ。だからそうしないために。そんなこと考えてるつもりはないんだろうけど、潜在意識のようなものがどこかで突き動かしてるんじゃない?」
「美化すんな美化。今の恵みひたひたの世界で人間がそんなこと考えっか?」
「潜在意識っていうのもまた、無限なんじゃない?」
「今の時代、恋愛にも結婚にも関心のないやつだっている」
「そりゃあこれだけの人間がいるんだから、そういう人もいるよ」
「そういうやつが繁殖してったら滅亡まっしぐらだけど?」
「そんなことはないって。この世界、なんだかんだでバランス取れてるんだから。問題がある以上に、解決策はある。遠い昔、人間の知能は現在の猿とさして変わらなかったって言うじゃない。それだって、起こった問題は解決してきた。問題と解決策は同程度なんだよ」
「やっべ、お前の世界観に酔いそうだわ。ああ、悪い意味で」
「Aレベルの問題はAレベルの策で解決できる。そこに起こった問題はそこから出せる方法でまず解決できるんだよ」
「楽観的かよ」
十織は静かに笑った。
「褒め言葉として受け取っておくね」



