「暇だね」

ベンチの隣で、十織が言った。

「お前が言うの珍しいな」

「言ってみたかったんだ」

「ああ、やっぱり変人だ」

「友達となにをするでもなく一緒にいて、『暇だなあ』って。最高じゃない?」

えっとと言って、潤はその様を想像した。

「……やっべ全然わかんねえ」

「ああそう」

「つうかお前、ちゃんと願望成就してんの?」

「順調だよ」

「まじかよ。普通になんもせずに二学期が近づいてきてんだけど」

「まだ夏休みは長いよ?」

「いいか。そうやって調子こいてるとなあ、夏休みってのは『あー』って言ってるうちに終わっちまうんだよ。そんで二学期に突入すんだよ。うかうかモードぶち切られるんだよ」

「大丈夫だよ。あと一つだもん、おれの夢」

「ええ……?」

「これはどうしようかなあって思ってるの」

「なにが」

「露木君に伝えておいた方が叶いやすいのかなあって。前々からちょくちょく思ってたんだけどね」

「はあ? そんならちゃっちゃと言えよ。んでちゃっちゃと叶えてまじもんの日常送ろうぜ?」

「え……? おれの夢全部叶っても一緒にいてくれるの?」

「なんだよそのガーリーな言い回し。別にいるけど。つかそれより七瀬はどうした。もうくっついたんだろ?」

「まあね。でもななから特になにもないし……」

「馬鹿かお前。まじで馬鹿か。そこは男からなんか誘ってうかうかすんだろうが。他のうきうきピーポーを見てごらんなさいよ。お前の学校にもそういう馬鹿やつらいたろう?」

「おれには無縁だと思ってたからそういう目では……」

「はあ? まじでお前人間のなにを観察してんだよ」

「生き生きした様子が素敵だなあと。表情とか。あと普通に動きも」

「んなまじめに訊いてねえよ。つかいいか。女子ってのはな、男子に過剰な期待をぶちかましてる愚かな生物なんだよ。前髪数ミリ切ってなんも言わなきゃ『前髪切ったの気づいてくれないー』ってなるんだよ」

「……ななはそういう人じゃないよ」

「七瀬にだっておれらの知らねえ一面くらいあんだろうよ。つかお前、前に七瀬を繊細なやつだと言ってたろうが」

「そういう繊細じゃ……」

「言い訳がましいなあさっきから。いいか、女子ってのはな、ちょっと大げさに愛情表現してねえとすぐに拗ねちまう生き物なんだよ。ドラマだの小説だのでよくあんじゃねえか、そういう女のめんどくせえ部分描いてる場面」

「おれあまり本は読まない……」

「ああそうかいそうかい。まあとにかく、明日でもいいから七瀬をデートに誘え。そんでもねえと拗ねておさらば告げられちまうぞ」

「なながそれを望むなら、おれは不満はないよ」

「あっは、うるせえ黙れお人好し。一発掴んだ女は離すなボケ。そんな無駄な恋愛させたら女がかわいそうだろうが。あとお前はもっと貪欲になれ。愚かになれ」

「おれはななが生きてればそれだけで……ああでも、笑っててほしいかな」

「だったらその(たっと)びの笑顔を拝むためにも一緒にいろ、デートに誘え。おれはいくらでも一緒にいるが女子はそうじゃねえぞ。あと、予測不能の生物である女子に変な期待は寄せるな。相手が七瀬であってもだ。あいつだって普通に女子なんだからよ」

潤は深く息をつき、乾いた口と喉にスポーツドリンクを流した。