「こんなこと言っておきながら、十織みたいなやつがそれをできるとは思ってねえけどな」
だったらさと、潤はまじめに声を掛けた。
「望む通りに思ってりゃいいじゃん」
「……え?」
「おれらって一般人だろ? 少なくとも、たったの一言だの日常の一部だのが世界を揺らすほどの人間ではねえ」
「うん」
「そんじゃあ、本当の意味で『世界を変える』のは不可能なんだよ。まったく力が足りない。でも、自分規模の世界なら作ることも壊すこともできる。いくらでも。だったら、そこくらい好きなようにしておきゃいいんじゃねえ?」
「自分の世界?」
「そう。『自分の世界』なんて、模様替えくらいでも変わるんだよ。中には着る服程度で変わる人もいるかもしんねえ。おれら一般人が自分の生きやすい世界を作るってなったら、世界の見方を変えるしかない。その術はただ一つ。自分が変わるしかない。
だから十織も、『先輩』は自分の言葉に囚われてねえし、平穏な生活を送ってるって思っちまえばいいんだよ」
「……おれのこの場合、責任逃れともならないかな」
「それくらい、ほとんどの人間がしてる。一人の人間の人生を暗転させておきながらのうのうと生きてる――それくらいのこと。
おれらが会った日、フードコートに学生っぽいやつらがいっぱいいたな。あいつらの中に、誰かをいじめて自殺に追い込んだようなやつがいたかもしれない。
そこまで大きなことはないにしても、何気ない一言で深く傷つけた相手がいるくらいのやつはいたかもしれない。そいつが普通にあそこにいた間、相手はまだその傷に痛みを残してる。
それくらいのこと、ありふれてるだろ?」
「でも、おれがそれをしていい理由にはならない」
まあ、と潤は苦笑した。「うん、その……異議なし」
十織は静かに、それでも明るく笑った。
「わかるよ、露木君の言いたいことも。確かに、『自分の世界』は自分次第でいくらでも変わる。まあ、それと過去と他人の現在を都合のいいようにするのは違うと思うけど」
「はいはい」
「ありがとう。大事なこと、思い出したよ」
「おれの恥ずかしさ強化させるようなこと言ったら承知しねえけど、その覚悟はあるわけ?」
十織は両手のひらを見せて、「穏やかじゃないねえ」と苦笑した。
「『可能性は無限』、だよ」言いながら、彼は手を下ろした。
「それを思い出した。改めて肝に銘じておくよ」
「ああ、そう」
「確かに、先輩がおれの言葉に苦しんでる可能性は否めない。でもそれは、先輩が穏やかに過ごしてる可能性も同じ」
そうだよねと無垢な笑みを見せる十織へ、潤はよく理解しないまま「ああ」と頷いた。



