十織は鼻をすすって涙を拭った。
「露木君に会えてなきゃ、おれななへの想いに気づけなかった」
「そりゃ正真正銘の馬鹿だ」
「ありがとう」
囁くような静かな声にその主へ目をやる。十織はふわりと微笑んだ。
「……別に」
「おれ、忘れないよ。露木君への恩」
「あっは、くそ重え」
「でも、ななにも忘れない」
「そっちの方が忘れちゃいけねえと思う」
「なながいたから露木君と仲よくなれたと思うから」
「おい待て」
潤は「前言撤回」と言いながら、虫を払うように大きく手を動かした。
「遠回しにすげえ恩着せがましいやつみてえになったじゃん」
「露木君のことをこんなに大切な友達だと思えるのはななに似てるからだと思うし、ななへの恋心に気づけたのは紛れもなく露木君のおかげ」
「だからそんな大げさなもんじゃねえって。おれがいなくてもそのうち気づいてたんじゃねえの?」
「その可能性は否定しないけど、おれはそうは思わない」
「へえ。……てか十織。お前、大丈夫だよ。ちゃんと自分あっから」
「うん。おれも最近、そう思ってる。変わったな、とも」
人って確かに変わるね――。言いながら、十織は夏の晴天を仰いだ。



