透明な海



「お前にとって確かなものってなんだ?」

「なんだろう。生き物が好きなことと、ななが幸せの象徴であることかな」

潤は小さく苦笑した。

「そんな大げさなこと問うたつもりはなかったんだけど」

でも、と彼は思った。

「本当に七瀬のこと好きなんだな」

「正直、小学校低学年くらいの頃から」

「……えっ、まじで?」

「まじで」

「よくそんな長い間気づかずにいられたな。ある種の才能かよ」

「おれは命あるものすべてが好きなんだ。ななもその一つのように思ってた。まあ、ちらちらななを特別視してるような気はしてたんだけどね」

「へえ……。まじで気づけてよかったな。終いにはキスまでされちまいやがって」

「想い」十織は少し声色(せいしょく)を変えた。

「昨日、改めて告げた」

「おお、まじで?」

「うん。『やっぱり十織は変わってる』って笑われた」

「まあ、おれもそれは否定しねえけど」

そうだね、と十織は苦笑した。

「それで、露木君の言ってたようなことを、ななは思ってた」

「おっ、やっぱあれだろ? 勢いでキスしちゃったけどどうしよう的なことで悩んでたんだろ?」

「おれが告白してから、おれの存在が変わったって言ってた。好きって言ってくれた」

ふっと頼りなく笑う十織へ、「泣くなよ?」と潤は苦笑する。

「おれ、幸せだ」

「そりゃなによりなんだけど、泣くなよ?」

「やっぱり、ななは優しい。おれなんかを……」

「はあ。まあ、よかったな。告白成功して。糞くらっとけよ?」

「それは難しいかな」と笑う十織へ、潤は「よしよし」と返す。

「笑え笑え。幸せなんだろ?」

「幸せ。悲しいくらい」

「そんな歌詞みたいなこと言われてもあれなんだけど。幸せなら笑え」

十織はへたくそな笑顔を張り付け、吊った目尻を下げて涙を流した。

「なんでそんな涙もろいかな」と苦笑して、「もう好きにしろ」と潤は続けた。

伸びをして、二学期には七瀬をどういじってやろうかと言って茶化そうとした声を飲み込む。