透明な海



テーブルにマグカップを二つ置いた。ななはカップへ鼻を寄せ、「いい匂い」と微笑む。

「……苔、本当に育ててるんだね」ななはちらりと後方を振り返って言った。

「ホソウリさん。かわいいでしょう」

「かわいい……うんまあ、そうなのかな」

少しの沈黙に、今度は十織が「あのさ」と言った。

「なんか……ごめんね」

「え?」

「あいまいな感じにしちゃって」

十織は脚の上で強く手を組んだ。自信を持っていい人間なのだと言う潤の声が頭に響く。

「おれ、ななのこと好きだよ。この間は、なんか……抑えられなくなったっていうか……。ななの言葉に甘えて……」

ごめん、と十織は続けた。

「本当に好きで、ななが生きてることが幸せなんだ。そうしたら、ななの姿かたちを実感したくなって……」

なにを子供のようなことを言っているのだと嫌になった。いかんせんななへのこれを恋愛感情であると認めたのが初めてで、それをどんな言葉に直すべきかわからないのだ。


ななはぶっと噴き出して笑った。

あちこちへやっていた視線を戻すと、彼女は下を向いてふふふと肩を震わせていた。

やがて顔を上げ、目元を細い指で拭う。

「ああ、おもしろい。やっぱり十織は変わってるよ。わたしなんかをそんなふうに思うなんて。まあ嬉しいんだけどさ」

言ったあと、ななはポケットを探るような動きをした。

「飴ちゃん食べる?」と棒についた飴を差し出す。

「マシュマロ味」

「……バニラとは違うの?」

「確かにマシュマロの味だったよ」

十織はふっと目を細め、それを受け取った。