透明な海



いくつか目の横断歩道を渡り、スーパーマーケットの向かい側で電柱に取り付けられた斎場の案内看板を見た。

今日もまた、自分の知らないところでいろいろな事実が起こっている。

自分が土手に寝転んでいたときに、ひどく絶望した人もいるだろう。同じように、かつてない幸を迎えた人もいるだろう。

十織はその当然に改めて思いを馳せるのが好きだった。


「あ」と発された声にどきりとした。反射的に足を止める。

「……なな。どうしたの?」

「……散歩にでも行こうかなと」

「そう」

「うん」

場を離れたくなるような沈黙を、ななは「あのさ」と破った。

「ごめんね。なんかわっかんなくなってるんだけど、わたしは……」

ななは一度逸らした目を戻し、「わたしは」と言い直した。

「十織のこと好き。なんか今までは普通だったのに、今はすっごい好き。一緒にいる時間が楽しいとか言われて、すっごい舞い上がってる。で、なんかその……」

ね、とななは苦笑する。「ちゃんと伝えときたくて」

ふふふと苦笑して、彼女は「あのさ」と続けた。

「カフェオレ、飲んでもいいかな」

「えっ……ああ、うん。……散歩は?」

「気が変わった」と笑うななへ「そう」と目を細め、十織は自宅へ向かって歩みを再開した。