透明な海



「えっ、お前のその生きることへの執着みたいなの、まじなんなの? なんでそんなに」

「母親の影響かな。ずっと、生きてるのは尊いことなんだって教えられてきたから」

「へえ。なんか、うちとは違う雰囲気だな。うちの親絶対そういうこと言わねえもん」

「そうなんだ」

「まあ、人に優しく的なことは教えられたけど」

「充分じゃない?」

そうなのかなと苦笑を返して、潤はまた目を閉じた。

「くそ暑いけど、眠れないことはねえかもな」

「寝ちゃえば? 自然に囲まれた中で寝るなんて幸せじゃない?」

「ああ、今のおれは否定しない」


生きている――。

その事実に対して、十織ほど強い幸福感は持てないだろう。

生きている限り、求めていない場面や望んでいない出来事にも遭遇する。

人間の愚かさを再確認することもある。その度に苛立ち、そんな自分に嫌悪感も抱く。

しかし、と潤は思う。

自然の音に耳を澄ませ、十織の言う虚無感のような「自分だけの時間」に浸るというのは、それほど嫌なものでもない。

それは生きていないと感じられない。