透明な海



「夢はみかん食いたいのと、自他ともに認める美味な蜂蜜レモン作ること。願いは……疑問の解消かな」

「ああ、そういえば。露木君の疑問ってなんなの?」

「じゃあおれも秘密。特に今日は」

「ええ……」

「いいじゃんか、今日は穏やかに過ごそうぜ。なんも考えないで、自然に聞こえてくる音を聴いて」

十織は静かに表情をやわらげた。「そうだね」と優しい声を返す。

「無になる瞬間って、あまりないからね」

「確かにな。常になんかしら考えてるよな」

「そう」

「妹はそうじゃないらしいけど」

「そうなんだ」

「動きを止めればもう、数秒で無の世界だって」

「へええ、すごいね」

「なあ」


潤は目を閉じた。

足元から吹く風がふわりと前髪を掻き揚げる。

今までなら、夏の風など暑苦しくて仕方なかった。蝉の声もそうだ。

車の音だってただ騒々しいだけだった。しかし今は――。


「なんか、取り残されてる感あるよな、こうしてると」

「ああ、『取り残されてる感』か。わからないでもない」

「なんつうの、虚無感っつうか」

「わかるわかる。おれはそれで、自分だけの時間みたいな感覚にもなって、いろいろ考えられる」

「へえ」

「まあ、いつも考えることは同じなんだけどね」

「なに考えてんの?」

「『生きてるなあ』って。自分も、世界も。それで幸せになる」

へえ、と潤は相槌を打った。