透明な海



昇降口を出ると、「降りそうだね」と七瀬の声が言った。続くように本人が隣にくる。

「露木君、傘持ってきた?」

「今日、天気予報見てない」

「災難だね。こりゃあ完璧降ってくるよ」

「……七瀬は?」

「ん?」

「傘持ってきたのか?」

いいや、と七瀬はかぶりを振る。

「仲間じゃ。困ったものだね」

「降ってくる前に家に着けばいいまでだ」

「冷めてるねえ。それができなかったら嫌だねってことだよ」

「それならそれで。致し方ない」

冷めてるねえ、と七瀬は改めて苦笑する。

「恋人のいる人に嫉妬してた露木君とは大違いだね」と笑う七瀬へ、潤は「騒々しい」と短く返す。

「いやあ、ところでこの空どうするよ」

「どうするもこうするも帰るしかねえだろ」

「この今にも降り出しそうな曇天の下に飛び込む勇者に、わたしは渾身の拍手を捧ぐよ」

潤が昇降口前の三段を下りると、あとをついてきた七瀬が「すごいじゃん」と笑った。

「拍手してあげようか」と続ける彼女へ、「気持ちだけで充分だ」と返す。

「露木君だって経験あるでしょ? 雨に湿った制服が独特なにおい発するの」

「おあいにく。おれ、こう見えてまじめだから。帰宅後毎日消臭スプレー吹っ掛けてるし」

「うわあ、女の子みたーい。女子力高い系男子だ」

「おれは女子を目指してるわけじゃない」

「ふうん」

「当然だろうよ」

「最近は多いよ? 女子よりも女子力高い男の人」

七瀬は「ちなみにわたしは男子よりも男子力の高い女ね」と笑みを見せる。

「それはどうなの」と潤が苦笑すると、彼女も「どうなんだろう」と同じように笑った。