同じメロンソーダを注いで戻った。

「おれが十織の言った七瀬に好かれない理由に納得しなかったのには、ちゃんと理由がある」潤は改めて言った。

「十織は七瀬になにもしてやれてないって言った。でも、草むしり手伝ったんだろ?」

「それくらい――」悲しげな目で見る十織を、潤は「落ち着け」と制す。十織は視線を少し下げた。

「十織にとっては『それくらい』の一言で片が付いちまうようなことでも、七瀬にとっては『一発ギャグを披露して数日間恥ずかしさを引きずる』ほどの覚悟ができるようなことなんだよ。

なにより、十織は七瀬のことが好きなんだろ? それ以上になにが要る。

それに、七瀬は十織といる時間が楽しいって言ったんだろ? あいつは思ってねえことを言えるようなやつじゃねえ。そんなこと、幼馴染の十織が一番わかってんだろう。

十織は自分を『自分のない男』って言ったが、おれはそうは思わねえ。

十織は、人間を愛せる人間だ。人間を大切に思えるやつ。

『可能性は無限』だとして、この世界に希望を見出せるやつだ。

人間を愛すことも、人間を大切に思うことも、この世界に希望を見出すのも、おれには到底できない。おれより優れてるって言ったところでなんになるかわかんねえけど、本当のことだ。本気でそう思ってる。

なにより、おれは『下谷十織』という人間を『純粋』で『優しい』、『与える愛に満ちている』人間だと思ってる。これも本当だ」

潤は一口メロンソーダを飲んで、唇を舐めた。

「いいか。下谷十織、お前は充分自分に自信を持っていい人間だ。それはおれにとって紛れもない事実だ。十織自身がこれを打ち消そうとしても、おれはこの事実の形を変えない。本当に正しくはなくても、本当に間違った思想にはしねえ。

今まで誰になにを言われてきたか知らないが、十織は『純粋』で『優しい』、『人間を愛せる』、『この世界に希望を見出せる』人間でもある。その証拠はおれの存在。

十織自身が『自分のない』、『七瀬になにもしてやれない』ような『下谷十織』を作っても、おれがそれと真逆な下谷十織を作る。証明する」

どうだ、と潤は締めくくり、メロンソーダを含んだ。口の中を潤したあとに、そこで少しぬるくなったそれを飲み込んだ。