「いい感じじゃんか」と言うと、十織は「どこがだよ」とまじめな様子で返してきた。
「お前なあ。相手は女子だぞ、あのおれら男子には想像つかない言動をとる、あの女子という生き物だぞ」
「それほど突拍子もない言動に遭遇したことはないけど」
「それなら余計わかれよ。あのあと今まで感じなかった変な距離があるってことは、七瀬はお前を意識してんだよ。『ああ、わたし十織にキスなんかしちゃった、どうしよう。あれは、あのときの十織はどういうつもりでわたしを抱きしめたの? 告白って勝手に捉えてオーケーの意味でキスなんかしちゃったけど、ただのいたずらみたいな感じじゃどうしよう』ってな」
おれさ、と十織は静かに言う。
「まだ、露木君に言ってないことがあるんだ」
「えっなに、本当はもうくっついたとか?」
いや、と彼は短く否定した。
「あの日のことについて。あの日、ななは『買い出しでもなにかの手伝いでも』、おれの望むことをするって言ったんだ。さらに、『つまらない一発ギャグで数日恥ずかしい思いするのも』いいって。それほどの覚悟があった女子がそれくらいでこれほど距離を作るかな」
「なに言ってんだ。お前、趣味人間観察なんだろ? たく、人間のなにを観察してんだよ」
それはつまりだな、と潤は言った。
「『一発ギャグで数日間恥ずかしい思いをする』という系統の覚悟ができていたのであって、『好きな人に抱きしめられたうえに告白される』という覚悟はできてなかったってわけだ。言っちまえば、恥ずかしい思いをさせられると思い込んでたわけだよ。
だからその瞬間は、咄嗟にお前の『告白』を『恋心を弄ばれる』という『羞恥心を掻き立てられる出来事』に変換した。それに乗っかる勢いでお前にキスをした。だけど直後からじわじわと『本気の告白の可能性』に『期待』を抱き始め、最後、『どっちにしろ最高のお礼でしょ?』で締めくくったわけだ。
今変な距離があるのは、『期待』してる『本気の告白の可能性』を確かめてるからだ」
「ええ」と戸惑う様子を見せる十織へ、潤は「戸惑うな」と返す。



