「……大丈夫だよ」潤は言った。十織の背を二度、手のひらで叩いた。

「あの事件の犯人が先輩である証拠もないだろ? あくまでその学校の中の噂に過ぎない」

十織は大きく頷き、鼻をすすった。

「それに、もしも。もしもな。もしも、その先輩があの『少年』だったとしても、少しずつ自分許せてるよ。大丈夫。十織はきっと、先輩に変わるきっかけを与えた。学校辞めたのも、変な印象のついた自分とおさらばするためかもしんねえだろ?」

ずるずると鼻をすすって震えた息を吐く十織へ苦笑し、潤は「お人好しもここまで重症化すると大変だな」と彼の背で手のひらを動かしたり跳ねさせたりした。

その間、十織がなにか言った気がした。「あ?」と聞き返すと、「先輩に会いたい」と小さな声が聞こえた。

「会ってっかもしんねえじゃん。めっちゃまじめな人になって、すれ違ってても気づかなかった的な。人間っていくらでも変わるんだって、あちこちで聞くだろ?」

だから大丈夫だってと締めくくったが、自分でもなにを言っているかわからなかった。

人間ほど愚かな生き物が果たして本当に変われるだろうかと思った。しかしすぐにはっとした。そんなことを考える自分自身も変わっていたことに気がついた。

今までなら、泣いている人の背をさすることも、その人を励ますような言葉を吐くこともなかっただろう。だから自分で吐いた言葉の意味もいまいち理解できないのだ。


「人は、やっぱ変わるよ」

潤はそっと声を放った。