「そう呼ばれてたんだ。突然、魔手が伸びたように感情的になり、周りの生徒に危険を及ぼす。その様子を、空腹状態の肉食動物が獲物を捕らえる様にたとえて『悪魔の獣』」

「……なんか、通り名だけ聞くとかっこつけ方間違えちゃったやつみたいだけど。やってることは異常だな」

「異常か……。学校内でもそう思う人がほとんどだったよ」

「そりゃそうだろ」

「先輩が学校の近所で発生した器物損壊事件の犯人であると囁かれるきっかけとなったのは、逮捕された少年の供述の内容だったと思う。少年は『いらいらしてやった』といったことを話した」

「で、十織はそのこと、どう思うんだ?」

「疑ってる自分もいる」

もしそうだったら、と十織は自身の左腕を掴んだ。

「もしそうだったら、おれが余計なことを言ったからだと思ってる」

「なんで」

お前は関係ないだろと潤が続けると、十織はゆるく首を振った。

「あれほど自分を嫌ってる人に対して、『自分を愛せ』とも取れる言葉は掛けるべきじゃなかった。常にそばにいるような関係でもないのに……」

なんて無責任な、と呟く十織の頬をなにかが伝う。

「怖かったんだと思う、先輩は。自分を認めることが。自分と、向き合うことが。先輩からあれほど強い自己嫌悪を感じたおれにとって、それを想像することは決して難しくなかったはずだ。なのに……」

乾いたアスファルトに、彼の頬を伝ったものが落ちる。着地と同時に弾けたそれは、いびつな丸でアスファルトの色を変えた。