透明な海



潤は「十織」と、彼の名を呼んだ。十織は潤へ目を向けた。

「お前は、そういう人間はどう思う。自分の短所を認識しておきながら、それを制御できない。そんな人間」

「……嫌いじゃないよ」

「そりゃなんで」

「自覚があるから。嫌いじゃないというより、できることがあるならしたいと思う」

「できること」復唱しながら、潤は眉が動くのを感じた。

「先輩の話だけど、あの人は深い自己嫌悪に陥ってた。強がるようにきつい目をしてたけど、奥に深い闇みたいなものが見えた。大げさな言い方だと思うかもしれないけど、本当のこと」

「そうか」

「自分のことが嫌いなのだと語るときには、それはさらに存在感を増した。もう、先輩がそれに飲み込まれてしまうんじゃないかとすら思った。

なんとか彼を救い出したいと思った。でもそれは叶わなかった。いつか、おれは彼に『自分を許せ』と言った。それが精一杯の救いの手のつもりだったんだ。でも、それは結果として、かえって彼を追い詰めたように思う。

先輩はもう学校にいない。去ったのは卒業という形じゃない。退学という形だった。その頃、学校の近所で器物損壊の事件が発生し、犯人の十八歳の少年が逮捕された。十八歳――。当時、先輩もその年齢であった可能性がある。

学校内では、感染力の強いウイルスみたいに先輩が退学したという噂が流れてた。やがてそれは、先輩があの器物損壊事件を起こして退学したのだというものに形を変えた」

「……その先輩ってやつは、学年超えて有名だったのか?」

十織は静かに頷いた。「悪魔の獣」

潤は十織の言葉を、疑問符をつけて復唱した。