透明な海



潤は深く呼吸をして空を仰いだ。手元の水のペットボトルから水滴が落ちる。

「あっついなあ、今日も」

「そうだね。露木君は季節、いつが好き?」

「家にいるなら、夏と冬」

「暑くていいの?」

「暑い中、冷房の利いた部屋で冷たい蜂蜜レモンを飲むのが好きなんだ。本読みながら」

「ああ、読書が趣味だったね。冬は?」

「冬も同じ理由。寒い中、暖かい部屋で温かい蜂蜜レモンを飲みながら本を読む。至福のひと時」

「へええ。その『蜂蜜レモン』って?」

「蜂蜜とレモン果汁を水かお湯に混ぜたやつ。うまいんだぜ」

「へえ」

「自他ともに認める美味なそれを作るのが、今の小さな夢」

「へえ。それって難しいの?」

「ちょっとでも蜂蜜とレモン果汁の割合を間違えると結構な影響が出る」

「そうなんだ。シンプルな料理ほど難しいだなんて聞くけど、本当みたいだね」

「塩むすびとか好みばっちりにするの結構大変だもんな。炊くときの米のかたさ、握るかたさ、塩の量って」

「そうだね。露木君は料理するの?」

「まあ、妹の腹が減ってるときとか、妹から命令があれば」

「そうなんだ。どんなもの作るの?」

「いろいろ。調べてレシピが出るもんならなんでも」

へえ、と十織は驚いたような声を出した。

「すごいね、なんでも作れるの?」

「まあ、それなりに。レシピ通りに進めてくだけだからな」

「ええ、すごいね。おれ、料理は本当に苦手で」

「へえ、やるんだ」

「いつか気まぐれにやってみたけど、危うく食材が無駄になるところだった」

「へえ。なんでもそつなくこなしそうだけどな」

「そんなことないよ」

「料理以外にも苦手なこととかあんの?」

「特別に苦手だと感じてることはないけど、平均に達さない分野はあるよ」

「へえ。えっ、なにか訊いていい?」

どうしようかなあと一瞬引っ張って、十織は「絵と裁縫」と答えた。