まあ、と十織は苦笑する。「冗談ぽく済んじゃったけどね」
「冗談?」
「なんかね。伝えるタイミングが悪かったんだと思うけど」
「えええ……なに大事なとこミスってんだよ。どういうのりで伝えたんだ?」
「相手の庭の草抜きの手伝いをしたんだ。そのお礼になんでもするって言ってきて……」
「なにしたのさ」
「こう……」
ぎゅって、と十織は腕を組むようにした。
「そんで?」潤は言った。
「好きって言った」
「ほう」
そりゃずいぶんと楽しそうでと苦笑し、潤は「それで?」と続きを促した。
「ここに」と十織は唇の左下に触れた。
「ええっ、なに、キスでもされたの?」
「まあ……」
「うーっわ。なに楽しそうにしてやがんだよ、最高じゃねえか。くそむかつくけど」
「それで」と十織は言う。まだあるのかと潤は複雑な気持ちになった。
「『どっちにしろ最高のお礼でしょ』って言われた。この『どっちにしろ』ってどういう意味だと思う?」
「……えっ?」
「え?」
いやあと言いながら潤は天を仰いだ。
「そりゃあお前、あれだろ」
「どれだろう」
「お前がふざけて、相手が照れたり本気にしたりするのを楽しむためにハグしたんだとしても、本気で好きでそうしたんだとしても、こんなキスまでしちゃあ最高のお礼になったでしょってことだろうが」
「ええ……?」
「なんでわかんねえかな。十中八九、その相手もお前のこと好きなんだよ。くそが」
「ええでも、発展の兆し見えないんだけど」
「知るかそんなもん。糞をくらえ。応援してやる」
「ええ……」
「戸惑うな、躊躇うな、受け止めろ。どうせあれだ、そのまま普通に接していけばそれっぽい関係になっていくだろう。はあ、まじくそ。まじでくそ。本当くそ」
「どうしよう」
「どうもこうも喜べくそが。おれみたいに孤独を持て余してるやつもいるんだよ」
「でも……」
「なに、『おれでいいのかな』とでも言いたいわけ? むしろよっぽどよくなきゃもの食うとこで触れたりしねえっつうの。けがらわしい」
「なな」と十織は呟いた。
「えっ、まじで?」と聞き返すと、彼はなにを返すでもなく、幸福の色を含んだ穏やかな表情をした。
「……いや……そんな顔できるくれえならいいんだけどさ……」
七瀬かという複雑な思いを、潤は静かに奥へしまった。



