透明な海



「あ」と声を発して、十織は足を止めた。「どうした」と潤も隣に止まる。

「ホトトギスだ」

「ホーホケキョ」

「そっちじゃないよ。ホトトギスっていう植物があるんだ」

あそこに生えてるのだぶんそうだよと十織が示す道の端に、濃い赤の小さな花が咲いていた。

「え、この毒々しいやつ?」

「そう。怪しげな見た目だけど、花言葉は綺麗なんだよ。『秘めた恋』とか、『永遠にあなたのもの』なんて」

「重いな……」

「ロマンチックじゃない?」

「感性乙女かよ」


頭上で、木から鳥が飛んでいった。


「まあ、おれは花で思いを伝えるなんていうのは柄じゃないけどね」

「ああ、そうなんだ? 結構そういうのやりそうだけど」

いやいやそんな、と十織は首を振りながら手をひらひらと動かす。

「小っ恥ずかしいよ」

「へええ」

「露木君はどうなの、こういうのは?」

「絶対無理だし、まずまず花なんか渡す相手がいねえ」

「そうなんだ。好きな人とかいないの?」

「いねえなあ」

「好みの人なんかは?」

「好み……馬鹿じゃなきゃいい」

「ここで言う『馬鹿』って?」

「感情的になったり、欲深かったり」

「へええ。あっさりした関係を好むのかな?」

「まあ、すげえよく言えばそうなのかね」

「ふうん、そうなんだね」

「まあ、感情的になるしそれなりに欲もある妹いるんだけどな」

「へえ、そうなんだ。妹さんとは? あまり仲よくないの?」

「いやあ……普通にいいと思うけど」

そうなんだね、と十織は穏やかに言う。