透明な海



なるほどな、と潤は声を発した。

「お前を誰がどう思っても、その人が存在する限りその思いは正しくあり、否定する必要はないって言いたいわけだ?」

「そう」

「でも、それじゃあお前はどんな人間なんだ?」

「わからないよ。答えらしい答えを返そうとすれば、『無限』とでも言うかな」

「無限」

「そう。おれ――下谷十織を知る人の数だけ、下谷十織は存在する。おれが思う下谷十織もその一部」

「ふうん……。お前は自分をどう思ってるんだ?」

「……えっ?」

「えっ? いやだから、お前自身は、下谷十織をどんな人間だと思ってるんだ?」

「……どうだろう……」

わからないと言いながら、十織は目を伏せた。

「おれは……」

おれはとまた呟いた十織の背を、潤は手のひらで叩いた。少し上から弱い視線が向けられる。

「お前、考えすぎ。もうちょっと感じろ。もうちょっと感情でも動け」

「感情……。感情は豊かな方だと思うけど」

そうでもないのかもしれないねと、十織は頼りなく笑う。