「ただ認められてるだけなんだよ、そんなの」
「へえ」と返しながら、潤は自分の口角が上がっているのを感じた。
「じゃあ仮に、一に一を足して三になると答えたやつがいたとしよう。その場合、そいつの『三』というその答えはどうなる?」
「『一に一を加えるとどうなるか』という旨の問いでは、『二』という回答が認められる。一に一を加えると二になるというのが事実だから。そうすると、『二』以外の回答は認められない。それだけじゃないかな」
潤は小さく笑い返した。
「『正解』を言い換えただけにも聞こえるな」
「そうか」
「……それで?」
「人間という分野では、もう少しちゃんと言葉に直せる気がする」
潤は胸中になにかが沸くのを感じた。「そうか」と、今度は彼が言った。
「否定されるべき人間って、いるのかな」
「どうだろうな」
「おれはいないと思う。肯定されるべき人間がいないように」
「ほう」
「なにを思ったってなにをしたって、必ず肯定と否定が出る。『ある人物』に対して『優しい』と思う人がいたとする。同時に、『愚か』だと思う人、『性格が悪い』と思う人もいたと。そうすると、その『ある人物』はどんな人になるかな」
「……ええ?」
「ある人にとっては『優しく』、ある人にとっては『愚かで』、ある人にとっては『性格が悪い』人なんだよ」
まんまかよ、と潤は苦笑した。
「どれも事実なんだ。事実の通りの意見が肯定されるべき、『正解』だとしたら、『ある人物』を『優しい』と思っても『愚かだ』と思っても『性格が悪い』と思っても、それらは『否定されるべき意見』ではない。
もちろん、これら以外の印象を持ってもそれは『否定されるべき意見』ではない。その人が『ある人物』をそう思った事実があるんだから」
「まあ……そうだな?」
「そういうこと」
「いやどういうこと?」
「誰がなにをどう思っても考えても、それは『否定されるべき意見』ではないんだよ」
「なら、いずれも『肯定されるべき意見』、にでもなるんじゃねえのか?」
「そうでもないとおれは思う。例えば、果物の『梨』を『おいしい』と思う人がいる。その『梨はおいしい』という思想は、その人が存在する限り事実として存在する。
だけど、同時に『梨』を『おいしくない』と感じる人もいる。そうすると、『梨はおいしくない』という思想もまた、その人が存在する限り事実として存在する。
そうすると、『梨はおいしい』という思想も『梨はおいしくない』という思想も『事実の通り』で、『肯定されるべき』思想なんだ。でもそれらはそれぞれ、『事実と異なる』思想でもあって、『否定されるべき』思想でもある」
どうかな、と十織は穏やかな声で締めくくった。語る間、終始それと同じような声だった。



