透明な海



「それも、大きな理由はないよ」

「……ただ単にお前に自我がない、と?」

「厳しい言い方するね」と十織は苦笑する。

「でも、おれはそれも否定しない」

「なんでだよ」

「だって、露木君におれが『自我がない』人間に見えたというのは事実でしょう? それを否定する資格はおれにはない」

「だからってなに言われても否定しないっつうのか?」

「おれは否定しないわけじゃない。同時に肯定もしない」

「はあ」

「おれ、この世界に正解ってないと思ってるんだ」

「正解?」

「そう。どんな分野にも」

「学問はどうなる。正解があるから、その数を基に学力に数字をつけるんだろ?」

「そうだね。でも、あれらは本当に『正解』なのかなっておれは思う。あんなものは単なる事実に過ぎないんじゃないかと」

「事実?」

そう、と十織は頷く。

「例えば、一という数字に一という数字を加える。そうすると、一を加えられた一は二になる。これ、どう思う?」

「正解、とは言わないんだろうな?」

「一に一を加えると二になる。これ、ただの事実でしょう」

「なら、二と答えたやつの『二』というその答えはどうなる」

「『そうですね』、くらいの返事しかないんじゃない?」

「それを『正解』って言うんじゃないのか?」

「そうかもしれないね。あえてその言葉を使うなら」

「ほう」

こういうこいつの方がおもしろいなと潤は思った。