透明な海



「この世界が堪らなく好きなんだ」

「ええ……まじで?」

まじでと頷いて、彼は少し照れたように笑う。

「綺麗なものばかりだから」

「ええ……綺麗か?」

「綺麗だと思う」

「じゃあ、具体的にどんなものが?」

「そうだなあ……まず、自然」

「だんだん減ってきてるけどな」

「それでも風は吹くし雨も雪も降る。晴れるし曇るし」

「まあなあ……」

「それと、生き物全般。どこまでも純粋だから」

「ええ……? 全般というと、人間も含まれるんだよな?」

「もちろん」

「人間なんかのどこが綺麗なんだよ? 欲と感情に飲まれた愚かな生き物じゃんか」

「そういう捉え方もあるね」

潤は小さくため息をついた。十織の話が退屈というわけではない。この時間が不快というわけでもない。ただ、十織のあるようでないような自我に複雑な思いが湧いた。

「やっぱり否定しねえな」

「今、否定するべきところあった?」

「別に否定されたかったわけじゃねえけど。お前さ、なんでそう、なんでもかんでも認めるわけ?」

「……おかしいかな」

「いや、そんな捨てられた動物みたいな目で見られても困るけど。おかしいっつうか、おかしい……うん、おかしいと思う」

「そうか」

「おれの発言すべてを認めるのは別に構わない。でも、その『おれの発言』の内容がばらばらなんだよ」

「ある思考を持つ人なら否定するようなことでも、おれは認めると?」

「ああ」

十織はふわりと微笑んだ。

「おれはいかなる意見も思想も、否定しないし肯定しないんだ」