透明な海



しいの言う「お花」は、十織の言うように花柄のレジャーシートだった。紺地に白の花が小さく無数に描かれたものだ。

「りりいはここにいたの?」

「え、母さんは?」潤が言った。

「ママは?」と十織が言葉を直す。

「ジュース買ってくるって」

「そうか」

「どんだけ買ってんだよ」

「お母さんと別れてすぐにりりいを探し始めたのかもしれないよ」

「ああ……」

十織は「そうだねえ」と言って小さく唸った。

「あまり遠くには行ってないと思うけどなあ」

背中に衝撃を感じて、潤は「うわっ」と声を漏らした。

後方を確認すると、足元にサッカーボールが転がっていた。

若い男性が駆け寄ってくる。

「すみません、お怪我ありませんか?」

「ああ、大丈夫です」

潤がボールを手渡すと、男性は「本当にすみませんでした」と頭を下げた。

「お構いなく」と返せば、彼は改めて「すみませんでした」と言って戻っていった。その先には、息子と思しき少年がいる。小学校三年生程度だろうか。


「ボールで飛ばされたんじゃね?」

背中に残る微かな痛みを感じながら潤は言った。

「そうだね。ボールで遊んでる子供も多いし」

「りりいは?」

「大丈夫、近くにいると思うよ。一緒に探そう」

「りりい見つかる?」

「うん、大丈夫。お兄ちゃん、探し物は得意なんだ」

「本当?」

「うん」

視線の先の様子が気になって、潤は「なあ」と声を発した。そこを指で示す。

「あれ、なんかぬいぐるみっぽくね?」

しいは「あっ」と声を上げて走り出した。

「ちょっと待って」とあとを追う十織へ、「おれはここで待ってる」と告げる。

彼に聞こえたかは不確かだが、行っても役に立たないだろうと落ち着いて、潤は走る大小の背を見送った。