透明な海



ふと、十織が小さく声を発した。

「……え、なに」

「あそこ」と十織は前方を指で示す。「子供」

「子供? 確かにいるけど。お前の言う『子供』はいづこ?」

「滑り台の横」

「んん?」

「おれ、ちょっと行ってくる」言いながら、十織は腰を上げた。

潤も反射的に続く。


十織の言う子供は五歳前後に思える女の子だった。しゃくりあげながら目元をぬぐう彼女の前に、十織はしゃがんだ。

「どうしたの?」

ええ、と潤は声を漏らした。

「一緒にきた人は? いなくなっちゃった?」

「りりい……」

「りりい?」

「りりい、なくなっちゃった」

「ユリか?」潤は言った。

「お人形かな?」十織が少女に問う。

「うさぎ」

「うさぎ。どんなうさぎ?」

「ピンクの」

「どれくらいの大きさ?」

十織は優しく笑う。

「泣かないで。大丈夫だから」

ね、と彼が優しい声を続けると、少女はゆっくりと腕を下ろした。