潤は色の濃い雲がいくつか浮かぶ青い空を見上げた。

「……おれらは今なにしてんの?」

「おれは音を聴いてる」

「ええ……。なんの」

視線を向けた先の十織は上を向いて目を閉じていた。

「ここで聞こえる全部」

「……蝉の大合唱しか聞こえねえけど」

「車の音も聞こえるよ。……あと、人の声も」

「人の声はやばくね?」

「生きてる人だよ。世間話してる」

「内容まで聞くのか」

「聞こえるだけ。自分から他の人の中に入っていく趣味はないよ」

「へええ、そうなんだ……」

「退屈?」

「いや、別に。まあ、このくそ暑い中他人様の話盗み聞かなくてもいいかなとは思うけど」

「ほら、蝉の声少し変わったよ」

「……そうか? つかこんなの真剣に聴いてなにが楽しいんだ?」

「音って、なにかが生きてないと鳴らないんだよ」

「まあ確かにな。ラップ音も死者の魂が生きてねえと鳴らねえもんな」

十織はぱっと目を開けた。機嫌を損ねた子供のようにまっすぐ見てくる。

「なんでそういうこと言うかな」

「思ったことを言っただけだ」

「思っても――いや、いいんだよ。いいんだよ、いいんだけど……」

十織はまだなにか言いたげにしてベンチの背もたれにもたれた。

「否定すりゃあいいじゃん」

「……えっ?」

「言いたいこと言えばいいじゃん。怖いから嫌なんだろ?」

十織はなにも返してこない。

「お前、なにをそんなでっかく持ってんの?」

「……別に、なにも……」

「なんかに囚われてるようにしか見えなくて。なんかにびびってるつうか」

「別に、なにも怖くないよ」

おれはこの世が好きだからと、十織は笑みを見せた。

意味わかんねえけどと言いたかった声を、潤は密かに飲み込んだ。