生きてる――。すぐにそう思った。ななは温かかった。
腕の中の彼女は動揺した声を発する。
生きているのだ。自分も、ななも。その事実が、十織に強い幸福感を与えた。
「十織? もしもし? これはどういう……?」
十織はななの頭に手を添えた。
強い幸福感は、独特な感覚とともに喉の奥を震わせた。
目を閉じると、じわじわと視界を滲ませていたものが頬を伝った。
鼻をすすると、ななは優しく名前を呼んだ。
「……十織? 泣いてるの?」
動こうとする手の中の髪の毛を制す。反射的な動きだった。
「甘えん坊」といたずらに声を発し、ななは背に腕をまわしてきた。
「なな……。好き……大好き」
「……え?」
頭に添えた手を下ろすと、ななは腕の中で顔を見上げてきた。
「なんで泣いてるの? 大丈夫?」
声の途中、彼女の細く長い指が頬を拭った。
「……ごめんね、強引なことして」
「いや、そんな大事じゃないんだけど。えっ、これは?」
十織は笑顔を作った。「無理にもらったお礼」
ななの体から腕を離すと、彼女は背伸びして上を向き、唇の斜め下に自身の唇で触れてきた。
動きも止めて見ていると、ななは唇を噛み、頬を赤らめた。そして上目遣いに睨むようにしたあと、目を逸らして「どっちにしろ最高のお礼でしょ」と拗ねたように言った。
「気をつけてね」と同じように言いながら十織の顔を一瞥して、彼女は玄関の方へ歩き出した。



