ななの存在や共に過ごす時間が今のようになったのは、もう十年近く前だ。九歳になるかならないかくらいの頃だった。
小学校三年生だった当時、二年の空白を経て再び同じ教室で過ごすことになった事実が非常に嬉しかったのを覚えている。
同じ教室に名前を置いていることを喜ぶうち、ななが登校してくることが喜びの対象になった。やがてその喜びの対象は彼女の存在自体に変わった。なながいることが嬉しかった。それが幸せだった。彼女が嬉しそうだったり楽しそうにしているとその幸福感は強くなった。
「おれ、なながいることが嬉しくてさ」
しゃがんだ足元の草を抜きながら言った。
はは、とななは軽快に笑う。「なにそれ」と同じように続けると、「なんかあった?」と優しい声を発した。
「なにもないよ。ただちょっと、伝えてみたくなった」
「ふうん。わたしも十織がいるの嬉しいよ? 虫も逃がしてくれるし、庭の苔剥がしも草むしりも手伝ってくれるし」
強く根を張った草を引き抜き、ななは顔についた土を運手越しに手の甲で拭った。
「そう」
「なにより、十織といる時間って楽しいんだよね。なんか、素でいられるっていうか」
学校じゃなんでだか突っ込み役っぽい方にまわらなきゃいけないからさ、とななは苦笑する。
「十織って、家族よりも一緒にいたいって思うの。いや、家族が嫌いだとか家がいづらいだなんて大きなことはないんだけどね?」
「ならよかった」
「慣れないこと言っていい?」と笑うななへ、「なんでも」と十織は頷く。
「十織はなんか、綺麗な森林みたいな感じなの。安らぎ? 安らぐって言えばいいのかな。とにかく、居心地がよくて。十織のそばって」
「それは嬉しい。おれもななとの時間好きだから」
「いつか誰かに言って女の趣味悪いとか言われないでよ?」
「ななこそ。おれなんかをそんなふうに思ってくれるのななくらいだよ」
「そんなことはないでしょう。十織は優しいもん。もっと積極的に人に接していけば、どんどん友達だってできるし、わたしなんか比にならないような女の子だって手に入ると思うよ?」
ううん、と十織はかぶりを振った。
「もしもこれからそうなっても、おれの中でななを超す人はいないと思う」
「へえ、言い切るねえ? 『可能性は無限』、でしょ?」
「うん。でも、こればかりは。誰かを好きになっても、それはななのおかげだから」
「へええ。嬉しいこと言ってくれるねえまったく。寿命延びちゃうよ」



