自宅の一軒手前の家の前で、聞き慣れた声に名前を呼ばれた。
「夏休みはいかがお過ごしで?」
ななは十織の前に立つと、彼のカメラバッグを一瞥した。
「なにか撮りに行ってたの?」
「少し遠くの公園に。いっぱい花が咲いてるところ」
へえ、とななは眉を上げた。「いいね」
「おれ、友達ができたんだ」
十織が言うと、ななは「えっ」と声を漏らした。
「本当に?」と言う表情は心底嬉しそうなものだ。
「うん。宿題のために行ったショッピングモールで会った人。ななと同じ学校に通ってるみたい」
「へええ……」
ななはなにかを疑うように眉を顰めたが、すぐに表情を戻して「よかったね」と明るい声を発した。
「ちなみになんだけどさ。その人って……すごい優しい顔してるくせにすごい捻くれた性格してない?」
「いやあ……おれはそうは思わなかった。確かに優しい顔はしてる」
「馬みたいな目してない? 性格とは裏腹にすごい綺麗なの」
「ああ、言われてみれば馬っぽいかも」
「えええ……。あんな人と友達になったの? 十織大丈夫?」
「大丈夫だよ。今日もその人と出掛けたし」
「仲よしじゃん。えっ、本当に?」
「うん。すごく優しい人だった」
「えええ……。前にも言ったけど、十織は人を認めすぎなんだよ。面倒なこと喋りだしたらすぐ話題切り替えてやりなね」
「話は合わないことはなさそうだよ」
「絶対真逆の性格してるよ、その人」
「自分と違うタイプの人の方が、発見があっておれは好きだよ」
ええ、とななは困ったように声を伸ばした。