透明な海



「ああ、ニチニチソウだね」十織は言った。

「ああ……名前は聞いたことある気がする」

「『楽しい思い出』とか『若い友情』なんて花言葉があるんだよ」

「へえ。……図鑑かな」

「ん?」

「お前。図鑑みてえ」

「ああ、図鑑は一時期よく見てた。覚えてるものはよく覚えてるよ」

「大丈夫、頭ん中優秀なパソコンみてえになってねえ?」

「おれは人間だよ?」

「そうであってほしいしそう思ってるけどさ。あまりにいろいろ知ってるから」

「そうか」と言う十織へ「おう」と返し、潤は自分の奥に後悔に似たものを感じた。


「ああ、タマスダレ」

「タマスダレ?」

「この縁取るように咲いてる、白とかピンクの花」

「細いユリみたいな」

「そう。一つの花は数日くらいしか咲かないんだって」

「へえ」

「間隔を詰めて植えるとしばらく見られるみたいなんだけど」

「そうなんだ」

「悲しいね。密植したところで、一つの花が咲いてる時間が延びるわけじゃない」

「悲しい……か」

十織は斜めに掛けていた中途半端な大きさの鞄を開け、カメラを取り出した。慣れた手つきでレンズを着ける。

「えっ、それカメラ入れてたのか」

「ああ、うん。カメラバッグ」

「へええ」

彼の知識の幅の広さで充分に寝られそうだと思った。すげえなと言おうとした声を「写真好きなんだ」と変換して発した。

「同じ景色には二度と出会えないからね。覚えててもいつか忘れちゃうから、残しておこうと」

「へえ」

「この花にだって、もう会えないから」

十織はレンズを覗いてシャッターを切った。