「浄化される気がして」歩みを再開した彼に続いて、潤は言った。
「ああ、わかる。綺麗なもの見るとこっちも綺麗になれる気がするよね」
「おう。……でもお前、浄化すべきものなんてあんのか?」
「そんなものばかりだと思うよ。綺麗なものを見るとどうしようもなく悲しくなるのがその証拠だと思ってる」
ふうんと返しながら、潤は母親の言葉を思い出した。
「綺麗なもの見て悲しくなるのか?」
「そう。なんでだろうね。それの綺麗な状態を守りたくなる」
「……へえ」
おれはもう重症か、と潤は思った。
綺麗なものを見て悲しくならない、守りたいとも思えないだけでなく、なにかを見て綺麗だと思うことがほとんどない。
「生命って、全部綺麗だよね」十織はぽつりと言った。
潤は「え?」と自然に出た声を返す。「生命?」
「命そのもの。それを維持することしか欲がない。なんて純粋なんだろうって思う」
「ええ……」
「生きたいって、それだけなんだよ。思いも希望も。それ以外にはなにもない」
「うん」
「それ以上に純粋なものってないんじゃないかって思ってて」
「へえ。おれはお前みたいなのが一番純粋だと思うけど」
「……そう?」
「なにも疑わないし、嫌わないし、むしろ愛しちゃうし」
「初めて言われた」
「まじか」
「これほど頻繁に会話する相手も、露木君がほんの数人目だしね。そのせいもあるのかもしれないけど」
「孤独かよ」
「おれ自身は孤独なんて感じてなかったけどね」
「それがよかったのかもな。孤独って自覚すると切なくね?」
「そうだね。でもおれは孤独じゃない。一緒にいてくれる人、親族の他に二人いる」
「……そうか」
十織の言う、綺麗なものを見ると悲しくなるというのはこういうことだろうか。
本当にそれでいいのかと複雑な感情が湧いた。それに感情を表す一言を添えるとすれば、「悲しい」になるかもしれない。



