透明な海



十織はのんびりとした歩みを静かに止めた。赤い花弁の中心に黄色の花弁だかしべだかがある。

「なんだっけ、これ」潤は言った。

「マリーゴールド。メキシコが原産で、そこでは死者を導く花とされてるんだって」十織は優しい声を並べた。

「へえ。えっ、じゃあここやばくね?」

「え?」

「黄昏には出るんじゃね?」

「……え、なにが」

潤は胸の前で手の甲を十織の方へ向けた。「幽霊的な」

はは、と十織は頼りなく笑う。

「嫌だな、そんな……。そんなことないって」

「わかんねえぞ?」

「……嫌な印象つけないでよ」

「お前が死者を導く花とか言うから」

「ああ、まあ。……でも大丈夫。メキシコでは、死は生の先、もはや生の一部として認識されてるらしいから」

「だからこそ、死にきれずに――」

「もうやめだよやめ」

終わり終わり、と十織は虫を払うように手を動かした。

「……お前、もしかしてホラーとか嫌いなの?」

「……好き、ではない。断じて」

「へえ。なんか意外」

「だっておかしいじゃん。亡くなった方がこの世に残るなんて。自然じゃない」

「へええ。この世なんて不自然なことだらけだと思うけどな」

「そう?」

「まあいい。今日は存分に花の魅力を教えてくれ」

「露木君も花に興味あるの?」

「……まあ。そうでもなきゃこんな花畑なんかこない」

「へえ」と十織はどこか嬉しそうに頷いた。