十織の白い手が花に触れた。ふふふと笑いをこぼす彼に、潤は苦笑する。

年中季節の花が咲いているというこの公園は、夏休みということもあってか家族連れの姿が多く見られた。恋人らしき二人組の姿もある。ここに七瀬がいなくてよかったと、潤は密かに安堵の息をついた。


「おれ幸せ」

「なにより」

「露木君はよかったの?」

言いながら姿勢を直す十織の腰辺りで、中途半端な大きさの鞄が動いた。黒の、少しなら濡れても問題なさそうな素材の鞄だ。

「え? ああ、特に予定もないし。お前こそ、男二人でこんなファンタジーの世界にきて楽しいのか? 優しくて明るいお相手ときた方がおもしろいんじゃねえ?」

「おれ、友達とどこか行くってやってみたかったから」

「へえ。友達への愛が深い」

「執着の域に達してるかもしれないね。自分でも少し驚いてる」

「まあ、別にいいと思うけどな。人間なんてそんなもんだ」

「そう?」

「程度に差はあれど、なにかしらに執着するだろう」

「執着……」

確かにそうとも言うかもしれないねと十織は穏やかな声を続ける。