透明な海



ドラマの音声に鼻をかむ音が混ざった。

「もうだめだ、涙腺緩んだ」

母の声に、父の声が「そんなに?」と笑い返す。

「純粋な人見てるとこっちが浄化されてさ。その副作用みたいな感じで泣けてくる」

「潤のけがれた思考回路はお母さん譲りかな」

手元の文字から視線を上げると、父と妹と目が合った。

「成長の証だ」と返せば、「純粋な大人だっていると思うよ」と静香がぽつりと言った。


純粋な人間に触れるとこちらも純粋になれる――。それは潤も考えた。明日の予定はそれゆえのものだ。


下谷十織。名前とともに彼の自分のものとは違う綺麗な表情が浮かぶ。

今の潤にとって、彼は純粋の象徴となっている。

気味が悪いと思う部分もおかしいと思う部分もあるが、その上に純粋という印象がこびりついている。ダイヤモンドの中に小さななにかを閉じ込めたような人だ。

中に変なものは見えるし、その異物は確かに存在するのだが、たとえそれがどれだけ存在感を出そうともダイヤモンドには傷一つつかない。

気味が悪い部分もおかしい部分も、純粋という種から発芽したもののように思えてしまうのだ。

あれはある種の才能だろうと、潤は密かに苦笑する。