リビングに入り、潤は「おっ」と声を発した。静香がいたことと、ダイニングテーブルにマンダリンの山があったことに対してだ。
「静香、もう大丈夫なのか?」
「痛みもないみたいだし、お腹空いたって言うから昼ごはん食べにおりてきたんだ」キッチンから母の声が言った。
「へえ」
潤はダイニングチェアに腰掛けた妹へ目をやった。「よかったな、大事になんなくて」
「……まあね」
「潤がいろいろしてくれたって嬉しそうに言ってたぞ」
ちょっと、と静香は母を制すように声を発した。
「潤もちゃんとお兄ちゃんやってるんだな」と言う母へ「うるせえ」と返す。
潤はダイニングチェアに腰掛け、マンダリンを手に取った。
「おばあちゃんからのプレゼント」静香は言った。
「そう、お母さんが送ってきたの。今回もまたすごい量を」母がキッチンから続く。
「おれとしては嬉しい限りだけどな」
「潤はみかん消費マシーンだもんね」
「みかんは無限にいける」
「手すっごいことになってるもんね」
「ああそうだ。テーブルにポチ袋あるだろ、潤へのお小遣いだってさ」
母の声に、潤はダイニングテーブルに置いてある袋へ目をやった。白地に無数に葉が描かれたものだ。
「へえ。いつもくれるよな」
「二人のこと大好きだから」
大げさに喜べば増えるかもよと続ける母へなんてこと言うんだよと返し、潤は皮を剥いたマンダリンを置いて袋を手に取った。
「いくら?」と静香が好奇心に満ちた声を発す。
潤はそっと袋を開け、中身を引き出した。
「……二万」
「おお、同じだ」
「なにより。危うく一枚なくなるところだった」
「わたしがそんなことするわけないでしょう?」
「そんなことしかしねえから言ったんだ」
「はあ? でもいいじゃん、兄だの姉だのは弟だの妹だのが困ってるときしか役目ないんでしょ?」
「ああ ああ、そうだ そうだ。だからおれは静香が困っているときには金なんかいくらでも差し出す」
しかし、と潤はねっとりと挟んだ。
「こういう瞬間、貴様が金を求めるのは『金』そのものへのけがれきった純粋な欲望によってだ。おれは欲にまみれた汚い人間に金を差し出すつもりはない」
「うわあ、けちん坊」
「言いたきゃ言えばいい」
潤は言いながら金を袋に戻した。



