少しの沈黙のあと、静香は「ていうか」と文庫本のそばにある箱を見た。
「なにそのガーリーなやつ?」
「ああ、もらったんだ」
「もらった?」
「バレンタインだから。ほら、おれって女子人気半端ねえじゃん?」
「ああ……まあそうなんじゃん?」
「おう」
潤は蜂蜜レモンを一口飲み、レモンピールを口に入れた。
「えっ、誰がくれたの?」静香は言う。
「同級生。隣の席の女子」
「へえ。かわいい人?」
「猫みたい」
「性格が?」
「顔」
ふうん、と静香は二度頷いた。
「で、箱の中身は?」
「友達のと一緒に作ったらしい」
「ついでか」
「嫌な言い方すんなよ」
「間違っちゃいないでしょ。本命ではないわけか」
まあ潤が女子に本命チョコなんてもらえるわけないもんねと笑う静香へお前ぶっ飛ばすぞと同じように返した。
「で、食べないの?」
「女子の手作りとか耐性ねえし」
「まあそうだわね」
うるせえと苦笑して、潤は箱を包む紙をそっと開いた。
茶色地に濃いピンクで水玉模様が成された箱に、静香が「おお」と声を発す。
「結構まじめなやつなんじゃないの、これ」
「結構もなにも本命だっつうの」
「それはないと思うけど」
潤は「静粛に」と唇の前で人差し指を立てた。
「で、で? 中身は中身は?」
はいはいと言って、彼は箱の蓋を開けた。
計六つの円形のチョコレートに、白で「Thanks」と一文字ずつ書かれているというものだった。
静香は語尾に疑問符をつけ、ん、と声を発した。
「……これ、本命ってことなんだよね?」
「……当然だし。本命だからこそのこのメッセージだろうが」
「サンクス?」
「おう」
「いやおかしいでしょ」
「……まあ、本人も日頃の感謝の気持ちって言ってたしな」
「なにより友達のついでが本命なわけないし」
「うるせえし」
ふっと静香は笑う。
「ていうか、めっちゃ字の綺麗な人だね。チョコのペンって書きづらいのに」
「静香もそんなかわいいもの使うんだ?」
「うるさいねえ、それくらい経験ありますっつの」
まったくと言う彼女が続けた「一個もらうよ」の声になにも返さないうちに、「T」の文字が書かれたチョコレートが箱から消えた。
潤は深く息をつき、「お前それ重罪だぞ」と呟いた。



