冷たい灰色に敷かれた茶色の絨毯が、乾いた風にからからと宙を舞う。
その部屋で本棚を満たす文庫本の分野に、偏りはない。
ミステリー、ヒューマンドラマ、恋愛、青春、ライトノベル――。
幼子が書店ごっこをするとしてもなんら不自由ないだろう。
静寂を騒がしく払う携帯電話のアラームで、露木 潤は目を開けた。
ベッドの上に手を這わせ、やがて掴んだ携帯電話を操作する。
静寂の戻った私室にふうと息をついて、彼はベッドを降りた。
ワイシャツに暗い緑のネクタイ、左胸に校章の入った濃紺のブレザー、細い白の線でチェック柄が成された灰色のズボン――。
およそ十か月前に自分のものになった、大きな特徴はない制服だ。
ワイシャツのカフスボタンを外し、ブレザーを腕に掛けて私室を出る。
階段の前で妹の静香に会い、「おはよう」と言う彼女に同じように返す。
同時に拳と開いた手を出し合い、開いた手を出した潤が先に階段を下りる。
階段の前でのじゃんけんは、幼少期、寝坊して機嫌が悪かった静香が先に階段を下りていた潤を押したことがきっかけに始まった。
潤に大きなけがはなかったが、娘のその行為に激怒した母が階段前で会った際のじゃんけんを義務付けた。
先日十三歳の誕生日を迎えた現在は静香の性格も穏やかになり、じゃんけんは必要ないようにも思っているが、タイミングが掴めずにだらだらと今日まで続いている。