「えへへ…、初めて、メルに怒られちゃった。」


眉を下げてそう笑ったルシアに、メルは小さく微笑んだ。

やがて、立ち上がった彼に差し出された手。彼の手を借りる一瞬だけ重なり、すぐに離れる。

触れた指は、ほのかに熱かった。


「帰りましょうか。皆で。」


メルの言葉に、ルシアとダンレッドが大きく頷く。

月明かりに照らされ帰り道に伸びる影は、雲に隠れればすぐに真っ暗な闇で塗りつぶされた。

しかし、ルシアを中心に並ぶ三人は決して離れることはない。お互いが隣にいることが、いつの間にか当たり前になっていた。


“メル。ずっと、私の執事でいてくれる?”

“もちろんです。私の全てを、お嬢様に捧げましょう。”


緊張を隠す彼女に傅いたあの夜から、その誓いは変わらずルシアとメルの間にあり、彼らを見守るダンレッドは二人を赤い糸のように繋ぎ続けた。


そして、やがて、時が経ち、ずぶ濡れの三人がウォーレンに出迎えられた夜から三年の月日が流れた。

平穏が徐々に揺らぎ始めたのは、
メル二十一歳。
ルシアとダンレッドが、二十歳の冬だった。