お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


ピカッ!!


突然、頭上に閃光が走り雷鳴が轟いた。

思わず立ち止まって顔をあげると、一滴の滴が頬に落ちた。ぽつり、ぽつり、と泣き出した空が髪の毛を濡らしていく。


「雨…っ?!」

「お嬢さん!こっち!!」


ダンレッドに手を引かれ、トタン屋根の休憩所に逃げ込むルシア。

あがっていた息も立ち止まって空を見上げているうちに落ち着いてくる。やがて雨は止むどころかさらに強くなり、ざあざあと音を立てるほどになった。

前髪をかきあげて空を睨むダンレッドは、焦ったように唸る。


「通り雨か。参ったな。すぐ止むといいんだけど…」


願いも虚しく雨は降り続く。

現時点からルーゼント家までは、まだ半分以上の距離があった。ダンレッドは、自分だけでも雨の中を走ってメルの元へ行くことを考えたが、ひとけのない道にルシアを一人残すのはリスクがあった。

ルシアを連れていくのは、さらに忍びない。

ルシアへと視線を移したダンレッド。彼女は今にでも駆け出しそうだったが、ダンレッドが自分を連れて行くと言い出さないことで、彼の葛藤を察して留まったままでいた。

彼女のシャツは、雨に降られた部分が透けている。


肩にかけられたコートに、はっ!とするルシア。

隣を見上げると、腕まくりをしたダンレッドが、心なしか落ち込んだような声で呟いた。


「ごめん、お嬢さん。俺がメルなら、こういう時に傘も持ってたし、解決策だって浮かんだはずなのに。」