お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》



急いでカーディガンを羽織ったルシアは、ダンレッドと共に屋敷を飛び出した。

普段は、ウォーレンに報告もなく家を出ることなんてしない。暗くなってから無断で外出するなんてもってのほかだ。

しかし、事は急を要する。

メルが引き抜きの魔の手に襲われ、契約書にサインをしてしまったら手遅れなのだ。

きっと、メルにはうちよりも桁違いに良い条件が提示されるだろう。加えて、クロノア家よりも位の高いルーゼント家の執事になった方が周りからの評価が高く、上級の階級である主人に仕える執事はそれ相応の対応を受けられる。

メルは、誰が見ても優秀だった。本人はその手の話題を嫌うかもしれないが、彼の整った容姿もゲストの目を惹く強いスキルである。

きっと、表舞台に立つ機会が多いルーゼント家にとって必要とされるはずだ。

しかし、ルシアは素直に頷けるわけがなかった。

これまで、出会ってから二年。メルの隣で過ごしたのは自分だ。執事としてのメルの外見しかみていないような奴らに、築き上げた信頼が奪われてたまるものか。


二人は走った。

ダンレッドは、呼吸の上がるルシアを気遣ったが、ルシアは止まろうとはしなかった。

メルに会いたい一心だった。


だが、神様は無情にもその道を閉ざしたのだ。