お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


歳上だと知った途端、急に敬語で頭を下げた彼。どうやら、目上に対する礼儀や一般常識は持ち合わせているらしい。

メルは自分に対して腰の低い態度をとってもらおうだなんて気は無かったが、彼に改めて指摘するほど目の前の少年に興味はなかった。

彼は好奇心に瞳を輝かせながら、ニコニコと言葉を続ける。


「実は今日この屋敷の使用人になるための面接に来たんですけど、木から降りられなくなってる子猫を放っておけなくて、つい助けようとしたんです。そしたら、枝、何本か折っちゃって!あはは…!」

(聞いてないけど…)


歳が近いからか、自分に親近感を持ったらしい彼を冷やかに見つめる。ダンレッドと名乗った彼も、初めてこの家を訪れた外部の人間らしい。

子猫救済のためとはいえ、いきなり人様の庭の木によじ登るなんて。それこそ使用人にでも見つかったら不法侵入者だと勘違いされていただろう。


これが、のちに相棒となる二人の出逢いだった。

そして、燕尾服姿で旦那様に傅くメルの姿を見て「執事って本当にいるんだ…!すごい!カッコいい!」とダンレッドが声を上げるようになったのは、そう時間が経たないうちだったのである。