お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


メルは、困ったように前髪をかき上げながら言葉を続ける。


「今日は、私が半年間面倒を見ていたアレンをハンスロット家に執事として預けるためにお暇を頂いたのです。」

「執事…?」

「えぇ。ハンスロット家の奥様が引退した老執事の代役を探していたので、仲介を。アレンはここの執事になりたいとずっと言っていましたし。」


ようやく事の真相に辿り着いたルシアは、ほぉ、と、納得したように頷く。

しかし、それを聞いていたダンレッドが意外そうに目を丸くして尋ねた。


「メル、よくアレンが執事になることを許したね?」

「始めは反対したんだよ。そんな甘い世界じゃないってね。でも、アレンが“メルさんに憧れて、メルさんのような執事になりたい”だなんて言うもんだから。…案外可愛いところあるよね、あの子。」


ふふ、と微笑を浮かべるメルを見つめるダンレッド。


実は、ダンレッドはアレンから“好きな子ができた”と密かに相談を受けていた。とりあえずアタックして距離を縮めなよ、とアドバイスしたダンレッドの言葉を真に受け、アレンは執事を志したのだ。

メルを慕っているのは本心なのだろうが、純粋に嬉しそうにしている保護者に真実は言えない。