彼女の瞳に映っていたのは、アレンの頬の傷だった。
それは、数日前に出来た喧嘩の痕。何かの拍子にカサブタが少し剥がれたらしい。指で軽く撫でたアレンは、眉を潜める。
「平気。放っとけば治る。」
「でも、血が出てるよ!痛いでしょう?…はいっ、これあげる!」
ガサゴソとワンピースのポケットを漁った少女に手渡されたのは、可愛らしいハート柄の絆創膏だった。
乙女チックな代物にアレンは思わずぎょっ!とする。
「いらねえよ!」
「遠慮しないで!私もよく怪我するからたくさん持ってるの。」
その時、屋敷の塀の向こうから彼女に似た声が響いた。
「ひっく、おねえさま〜…!どこ〜…?」
あまりにも見つからなくて泣き出した様子の鬼役の妹が、大声で少女を探しているようだ。
はっ!としたニナは、素早く屋敷の門へと駆けていく。
「ごめんなさい、もう行かなきゃ!遊んでくれてありがとう!」
「は…っ?え!?」
嵐のように過ぎ去っていく小さな背中を、呆気にとられて見送るアレン。すると、門を潜る一歩前。くるりとこちらを振り向いたニナはアレンに向かってニコリと笑って手を振った。
「ばいばい、アレン!また遊ぼうね!」
見えなくなる彼女の姿。
抱きとめた感触が、いまだに腕の中に残っている。
じんわりと熱を持つ体と高鳴る胸の正体に彼が気付くのはまだ先の話だが、アレンがニナに興味を持ち始めるきっかけになるには十分だった。
そしてこれが、アレンの初めての恋であった。



