お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


可愛らしい猫の鳴き声が耳に届いた。

しかし、その方角は聞こえるはずがない頭上。

思わず、ばっ!と顔を上げ辺りを見回すと、門の脇に生えた大木に、ガサガサと揺れる黒い影が見える。

次の瞬間。目を見開いたメルの視界に映ったのは、猫と呼ぶには大きすぎるシルエットだった。


『みゃっ!』

「?!」


ぴょん!とこちらに飛び降りた子猫。思わず抱きとめるが、問題はそこではない。子猫を捕まえようとしていたらしい少年が、ぐらり、と体制を崩し、枝から身を乗り出している。


「うわわわわっ?!!!」

(っ!嘘だろ…?!)


大きな叫び声とともに、まるで流星のように目の前に落ちてきた少年。猫を抱きしめながら、メルは驚きのあまり目を丸くして言葉を失う。

何が起こった?

ほんの数秒の間に、人間が空から降ってきた。

混乱と動揺の中、ぱちぱちと瞬きをしていると、かろうじて受け身をとったらしい彼は頭に手を当てながらむくり、と起きあがる。


「いたた…!死ぬかと思ったあー…」