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「…ここか…。」


年季の入った地図を手に、キャリーケースを引いて大きな屋敷の前に立つメル。

郊外に建つその屋敷は、辺りの住宅とは明らかに敷地面積も造りも異なる豪邸であった。門の奥に広がる庭を見渡すと、本館であろう建物の他に渡り廊下で繋がっている離れがあり、別館は小さなコテージのようなデザインになっている。

アンティーク調の装飾も屋敷に漂う穏やかで品のある雰囲気も、メル好みだ。

どうやら、師匠が専属契約を取り付けたクロノア家は、街でも名の知れた上流階級の貴族らしい。厳つい門構えに、一流の主人の期待に応えなくてはならないという重圧と、自分の実力を試せる高揚感から胸が高なった。


コツコツ…


やや緊張気味に屋敷の玄関を目指す。

完璧主義な気質のメルは、絶対的な服従心とともに、この屋敷の旦那を自分の仕えるべき主人に相応しいかどうか見定める気でいた。もちろん、自分が熱量を注ぐのに値しないような男なら、いくら階級が高くてもすぐに専属契約を切りミカゲのように野良になるつもりだ。

そんな野心のような鋭さを宿し、高くそびえ立つ屋敷を見上げて歩いていた

その時だった。


『みゃあ……』

(え…?)