お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


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「あ!おはよ〜、メル!今日も早いね〜」


出会いの夜から二年後。

クロノア家の門を潜ったメルを出迎えたのは、他所行きの茶色の外套を羽織り、愛剣を腰に携えたダンレッドだった。にこりと微笑む彼がメルを出迎えるのは、最近では見慣れた光景である。

メルはクロノア家の執事となってから、屋敷の一室を借りて寝泊まりしていたが、ルシアが帰って来てからは数駅離れた地区に別宅を借りて住むようになっていた。

それは仕事とプライベートを分ける意味でもあり、ルシアに対する配慮でもあった。また、年頃の娘を持つ親として、ウォーレンが若い男女が一つ屋根の下で生活するのは気になるだろうと気遣った結果である。

ダンレッドも、屋敷の近くに店を構えている小さな食堂に間借りで住み始めたらしい。本人曰く、ぶらりと立ち寄った際に店主と意気投合し、まかないに飛びついたそうだ。

その経過も、人を愛し人に愛される彼らしい。


「ダン、今日はどこか行くの?」

「うん!地元の警備隊に誘われてね。パトロールの人数が足りないんだって。要はお手伝い、ってとこかな。」

「ふぅん、すごいじゃないか。直々に声がかかるだなんて。」

「へへ…っ!街を散歩してて警備隊のおじさん達と仲良くなっただけだよ。」


ダンレッドは、警備隊の手伝いをする代わりに剣術や武術の指導も受けているらしい。少しでも用心棒としての腕を上げようと通い詰めているようだ。


「…あ!お嬢さんはまだ寝てるみたい。」

「わかった。朝食の準備が終わったら、メイドに声をかけるよ。」

「うん。じゃ、行ってくるね!」


ひらひらと手を振って駆けていくダンレッド。

メルは成長していく相棒の背中を見送りつつ、澄んだ朝の空気を小さく吸ってクロノア家の屋敷へと入っていったのだった。