少年の前に座るのはミカゲ。

燕尾服のタイを緩め、気だるげな色気を纏った彼は、こう見えて名の知れた一介の執事である。

仕える主人は数多く、その仕事も選ぶことはない“野良”。
素性不明、年齢不詳、そして呼ばれる名前は人によって異なる。

この喰えない男の執事のライセンスに刻まれた名がミカゲだったというだけで、彼をよく知るものはミカゲと呼んでいた。


「とにかく、あっちの家には俺から連絡を入れておく。今日中に荷物をまとめて向かえ。話は以上だ。…分かったな?」


相変わらず、粗野で急な話だ。

しかし、師匠のこのような扱いには慣れている。立場の弱い自分は逆らうこともできない。


こうして、独り立ちのスタートラインに立った幼き執事は、一人、ミカゲの執務室を出たのだった。