お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》

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「旦那様。所用で少し出かけてもよろしいですか?」


その夜。

クロノア家の執務室に、凛としたメルの声が響いた。ギ…ッ、と椅子から立ったウォーレンは、執事の彼に優しく答える。


「珍しいな、そんなことを言い出すなんて。…まぁ、プライベートは詮索しないさ。」


くすくすと微笑ましげにメルを見つめるウォーレン。彼の視線の意味を察したメルは、怪訝そうに眉を寄せる。


「別に、やましい事情があるわけではありません。ただ、帰りが遅くなるかもしれないので、伝えておこうと思いまして…」

「いい、いい。私はメルをミカゲから預かった身でもあるし仕事の便宜上ここに住んでもらっているが、自由に外泊したっていいんだぞ。お前も年頃だろうからな。…ただ、メルの入れる食後の紅茶は美味いから、朝までには帰ってきて欲しいが。」

「ひとこと言っておきますが、女性と会うわけではありませんから。」


そんな訂正もさらりと流したウォーレンは、頬杖をついて、にこにことメルを見つめている。

パタン、と執務室を出たメル。

全く、思春期の息子を持った親ですか貴方は。

そんなことを思ったメルだったが、ウォーレンは娘と歳の近い自分やダンレッドを実の家族のように思ってくれているのだろう。嬉しさもある反面、主の誤解にため息をつきながらコツコツと廊下を歩く。