メルはさほど気にかける素振りも見せず、すぐに目の前の仕事へと移った。
発注数を確認し、港に船舶している業者と倉庫を管理している役人の仲介役を果たすメル。そしてウォーレンは、そんなメルを頼りにしながら、ダンレッドと共にウィスキーの色や質を確認して回っている。
その時。ふと、メルは視線を感じ、ふっ、と顔を上げた。視界に映るのは、せかせかと働く業者達と身内の姿だけだ。
さりげなく周囲を窺っていると、倉庫の扉付近に立っている帽子を目深にかぶった男と視線が交わる。しかし、じっ、と見つめていると、視線はすぐに逸らされ、何事もなかったかのように男は倉庫を出て行った。
「メルさん?どうしたんです?」
その後、顔を覗き込むように、きょとん、として声をかけてきたダンレッド。
何も気付かなかった様子の彼に、メルは静かにまつ毛を伏せて答える。
「いや…、なんでもないよ。」
ダンレッドは、薔薇色の瞳を、ぱちり、と不思議そうに目を丸くしていた。
そしてメルは、役場の担当者と談笑している様子のウォーレンの方を一瞥し、何かを思案するように男が消えて行った扉を見つめていたのだった。



